2010.10.6

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福島区歴史研究会会員論文


海老江の「宮座(キョウ)神事」

末廣 訂

『大阪春秋 128号』新風書房 2007.10 所収


 野田阪神駅前より淀川に向って十分ほど歩いたところにある海老江八坂神社 に都会では珍しい宮座神事が今も続いています。                         トウヤ  毎年十二月十五日の夕方、宮座神事がおこなわれる頭屋宅に座衆がつどい、 地元の八坂神社の祭神に酒食を供える神事が営まれます。この集まりが宮座で、 私たちはキョウ(饗)神事ともいっています。  江戸中期「天明」の記録によると、当時の宮座衆は三十八軒で、戦前までは 三十軒前後の座衆で営まれていました。先の戦争で戦災にあったり、引っ越し たり、また高齢化等で現在の座衆は十三軒まで減ってしまいました。しかも十 五日当日の行事に参加できる座衆は四〜五人になっています。  宮座の行事は十二月はじめに頭屋宅で行う打ち合わせから始まります。十三 日に座衆で神饌に必要な買い物をした後、頭屋宅で道具改めと称して神事用具 の員数点検を行います。そして、翌十四日には白むし用の米洗の儀が行われま す。この米洗の儀は淀川に船を出して米を洗っていたようですが、川の汚れで 昭和三十三年を最後に中止となりました。  【写真 昭和32年12月の米洗の儀(淀川) 略】  十五日の当日、頭屋は夜八時頃、女人禁制の神事に則り、家から婦女を去ら せ、神饌の調理を始めます。座衆は白衣、白袴に着替え、床の間に設けた祭壇 の前でお払いを受けた後、白蒸し用のカマドに火を入れます。そして庭で藁打 ちをした後、全員でしめ縄作りや飾りつけの作業を行い、いよいよ「キョウ」 料理の作業に入ります。  料理一つ一つに昔からのいわれがあるようです。蒸しあがった餅米を紙で巻 いたわらで順番に巻き上げて調理した白むし、俗に「竜頭かご」、「菊花の供」、 「イナなます」、「イナずし」、そして葉らんに白むしを盛り上げた「こま犬」 の五品を対で調理して、床の間の祭壇に供えます。また、十二ケ月それぞれの 代表的な食材を三宝に盛りつける作業があります。夜十一時ごろを目途に調理 を終え、座衆は白装束から紋付、はかま、袴姿に着替え、出立前の膳につきま す。  夜十二時ごろ、いよいよ神社に向けて出立します。床に飾っているキョウ料 理は「からびつ」に入れ、十二ケ月のご膳は「ほがい」に納めて、冬の真夜中 寝静まった町を松明の明かりを先頭に行列は神社に向かって進んでいきます。 神社の行事が終わるのは午前二時近くになります。                     ナオライ  翌日は頭屋宅で神饌のお下がりをいただく直会があります。この席で籤引き により翌一年間の新しい頭屋が決まり、年内に頭屋の引継ぎ式が行われます。  何百年も続いているこの神事は昭和四十七年に大阪府の文化財(無形文化財 の資料)に指定されましたが、今では数少なくなった座衆で昔の姿をそのまま 受け続けていくには大変厳しいものがあります。宮座行事を守り続けていく 「伝統の重み」を座衆が感じている昨今です。                       (海老江八坂神社 宮座衆)


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